「百足退治伝説」のあらすじ
平安時代、「俵藤太秀郷(タワラノトウタヒデサト)」という若い武将が、瀬田の唐橋を渡ろうとしていたところ、大勢の人が橋の手前で騒いでいます。見ると、橋の中程に一匹の大蛇が横たわっていて、動こうとしません。人々は、それが恐ろしくて、誰も橋を渡れずに困っているのでした。
しかし、俵藤太は何も恐れずにその大蛇を踏みつけて通ってしまいました。
その夜、街道の宿場で俵藤太が寝ようとしていたところ、一人の世にも美しい天女のような女性が訪ねてきました。
「私は琵琶湖に住む竜王の娘(乙姫)です。実は三上山に棲む大百足が魚たちを喰い殺し困っておりました。そこで、誰かその大百足を退治してくれる強い武将がいない者かと、大蛇の姿になって唐橋で待っておりますと、あなた様が私を恐れることなく通って行かれました。そこで、あなたを強い武将とお見受けし、お願いに上がりました。どうか、三上山の大百足を退治してくださいませんか。」
と女性は言いました。
それを快諾した俵藤太は、早速、湖岸まで引き返し、大弓を携え大百足を今や遅しと待ちかまえました。
やがて、深夜の空に雷鳴が轟き、三上山の方から百千の火がギラギラと燃えて、天地が不気味に鳴り出したかと思うと、全身黒光りの巨大な百足があらわれました。その巨大さは、三上山を七巻半もあったと言われます。
待ってましたとばかりに俵藤太は竹のように太い矢を射かけましたが、矢は鉄に向けたかのように跳ね返ってしまいました。続けて、二本目を射かけましたが、結果は同じです。
俵藤太は焦りました。残る矢は一本のみ。
「南無八幡大菩薩、加護を下し給へ……」
と必死に祈り、矢の先に自分の唾をたっぷりと塗りました。

人間の唾液は百足を溶かすと言うことを思いだしたのです。
三本目の矢を力一杯引き絞り、ひょうと放つと、今度は狙い違わず大百足の眉間に見事に突き刺さりました。その瞬間、雷雨も火も天地の鳴動も消え、とうとう大百足は退治されました。
数日後、再び竜王の娘と名乗る女性が訪ねてきて、誘われるままに琵琶湖の深底にあるという竜宮城に案内され、竜王から百足退治を大変に喜ばれ、お礼として、いくら使っても減らない米俵、いくら裁断しても減らない布、何も入れなくても思いのままのものが煮上がる鍋、それに釈迦在世の時代に造られたという大きな釣鐘、そのほかにもたくさんの礼品を竜王から送られたのでした。